更新日:2024.11.18
障害年金と老齢年金、どちらがお得?65歳からはどう変わる?ケース別に徹底解説
障害年金を受給している人が老齢年金ももらえるようになったとき、「障害年金と老齢年金、どちらがお得なのかな?」「65歳になったら障害年金はどう変わるんだろう?」といった疑問を持つことは多いのではないでしょうか。
この記事では、障害年金と老齢年金を両方受給できるようになったときにどんな選択肢があるのかをわかりやすく解説します。
65歳以降の年金受給についてもケース別に具体的にご説明しますので、ぜひ最後まで読んで参考にしてください。
目次
障害年金と老齢年金は両方もらえる?
結論からお伝えすると、障害年金か老齢年金のどちらかを選択することになります。
公的年金は原則として「1人1年金」と定められているので、違う理由で支給される年金が2つ以上あるときは、1つの年金を選択します。
ただし、65歳以降は特例的に違う理由で支給される2つ以上の年金を受給することが可能です。
そこで、64歳までと65歳以降に分けて、障害年金と老齢年金のどちらを受ける方がいいのかをみていきましょう。
障害年金と老齢年金|64歳までの2つの選択方法
64歳までの人で障害年金を受けている場合は、以下のような選択肢があります。
- 障害年金を受け取る
- 特別支給の老齢厚生年金と障害者特例を受け取る
障害年金を受ける人が65歳前に支給される特別支給の老齢厚生年金を受けられるようになると「障害者特例」も受けることができます。
厚生年金の障害者特例とは?
厚生年金の障害者特例とは、64歳までに「報酬比例部分」の特別支給の老齢厚生年金を受給できる人が、一定の条件を満たすと65歳を待たずに「定額部分」が受給できる制度です。
障害者特例を申請できるのは、次の3つの条件をすべて満たす人です。
- 特別支給の老齢厚生年金の受給権を有していること
- 厚生年金保険の被保険者でないこと
- 障害等級1級から3級に該当する程度の障害の状態にあること
例えば、昭和36年生まれの女性(令和6年:63歳)は、63歳から特別支給の老齢厚生年金として報酬比例部分のみが支給されますが、定額部分は65歳まで支給されません。
この女性が64歳までに障害等級1~3級までの障害を負うと、障害者特例の適用を受けることができ、請求した月の翌月分から報酬比例部分に加えて定額部分も受け取れます。
なお、特別支給の老齢厚生年金の詳細については、日本年金機構が公開している特別支給の老齢厚生年金でご確認いただけます。
参考:特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)を受けている方が、定額部分の支給開始年齢到達前に障害の状態になったとき
【障害者特例で注目するポイント】
障害者特例を受ける人の厚生年金加入期間が20年以上あって、加給年金対象となる65歳未満の配偶者や高校卒業までの子がいる場合は、定額部分に加えて加給年金も支給されます。
加給年金で支給される額と加算対象者の年齢制限は、下表のとおりです。
加算の対象者 | 加給年金額(令和6年度額) | 年齢制限 |
---|---|---|
配偶者 | 234,800円 (月額19,566円) | 65歳未満であること (大正15年4月1日以前に生まれた配偶者は年齢制限なし) |
第1子、第2子 | 各234,800円 (月額19,566円) | 18歳到達年度の末日までの間の子 または1級・2級の障害の状態にある20歳未満の子 |
第3子以降 | 各78,300円 (月額6,525円) | 18歳到達年度の末日までの間の子 または1級・2級の障害の状態にある20歳未満の子 |
さらに、配偶者の加給年金には老齢厚生年金を受けている人の生年月日に応じて、34,700円から173,300円が特別に加算されます。
障害者特例は障害等級3級までが支給要件のため、初診日が国民年金だった人で、障害基礎年金の等級にあてはまらず不支給となった場合でも、障害者特例により定額部分が支給される可能性があります
障害年金と老齢厚生年金の障害者特例はどちらが得?
障害年金と老齢厚生年金の障害者特例のどちらがお得になるかは、人により違います。
どちらの年金も、厚生年金の加入期間や給与、家族構成により年金額が変わるのでどちらが有利かは一概には言えません。
いずれの年金も年金事務所で年金額の試算ができるので、必ず試算をして選択しましょう。また、年金を選択するときは試算額の多い方に決めるのではなく、税金や国民健康保険の保険料など控除される金額を踏まえて、最終的な手取り額をしっかり確認してから判断することをおすすめします。
障害年金と老齢厚生年金の障害者特例の課税状況は下表のとおりです。
障害年金 | 障害者特例 |
---|---|
非課税 | 雑所得 (老齢年金の特例なので課税対象) |
障害者特例を受けたあとに厚生年金に加入したり、障害が軽くなったりすると支給停止となるので、自分の障害の状態や働き方も考慮して選択しましょう。
障害年金と老齢年金|65歳以降はどう変わる?
65歳以降になると老齢年金の支給が始まりますが、特例的に違う理由で支給される2つ以上の年金を受けられるようになります。
一口に「障害年金」といっても実は初診日に加入していた年金制度により2つの種類にわけられます。
下図は、障害年金の種類を図解したものです。
上図のように障害年金は「障害基礎年金のみ」を受けている人と「障害基礎年金と障害厚生年金」を受けている人がおり、それぞれ65歳以降の年金の選択方法が変わります。
それぞれの選択方法をを順番にみていきましょう。
ケース(1):64歳まで障害基礎年金のみを受けていた
障害基礎年金のみを受ける人は65歳になると老齢基礎年金を受給できるようになり、障害基礎年金か老齢基礎年金のどちらかを選択することになります。
下図は、65歳以降の受給パターンを図解したものです。
上記のケースにあてはまるのは、初診日に国民年金に加入していた人、もしくは20歳前に初診日のある人です。
なお、厚生年金に1か月でも加入していた場合の選択肢は、以下のようになります。
- 障害基礎年金+老齢厚生年金
- 老齢基礎年金+老齢厚生年金
下図は、厚生年金に1か月でも加入していた場合の選択肢を図解したものです。
老齢基礎年金が受けられる人が以前に厚生年金に加入していた場合は、加入期間が1か月であっても加入した月数と給与に応じて、65歳以降に「老齢厚生年金」として年金が支給されます。
ケース(2):64歳まで障害基礎年金と障害厚生年金を受けていた
障害基礎年金と障害厚生年金を受けていた人(障害厚生年金2級以上の人)は、65歳以降に老齢年金の支給が始まると次の3つのパターンから1つを選択することになります。
- 障害基礎年金+障害厚生年金
- 老齢基礎年金+老齢厚生年金
- 障害基礎年金+老齢厚生年金
下図は、3つの選択肢を図解したものです。
老齢基礎年金と障害厚生年金の組み合わせはできません
障害年金と老齢年金、どちらがお得?
障害年金と老齢年金がどちらがお得になるかを選択するときは、支給総額だけを見るのではなく、内訳に注目すると判断しやすくなります。
「障害基礎年金と老齢基礎年金」「障害厚生年金と老齢厚生年金」それぞれを比較してみましょう。
障害基礎年金と老齢基礎年金を比べた場合
次の3つのケースでは、老齢基礎年金よりも障害基礎年金の方が年金額が多くなります。
順番にご紹介していきます。
【障害等級1級の障害年金を受けている】
受けている障害年金の等級が1級であれば、老齢基礎年金よりも障害基礎年金のほうが年金額が多いのでお得になります。
障害等級別の年金額は下表のとおりです。
障害基礎年金1級の年金額 | 1,020,000円(令和6年度額) 老齢基礎年金の満額×1.25 |
障害基礎年金2級の年金額 | 816,000円(令和6年度額) 老齢基礎年金の満額と同額 |
障害等級1級の場合には、老齢基礎年金の1.25倍の額(1,020,000円:令和6年度額)を受け取れるため、障害基礎年金のほうが多く受給できます。
なお、老齢基礎年金は課税対象となるため税金を納めることになりますが、障害基礎年金は非課税となるので税金が控除されることはありません。
参考:障害基礎年金の受給要件・請求時期・年金額|日本年金機構
【法定免除を受けていた】
国民年金の保険料を法定免除された人は、老齢年金よりも障害年金を受け取る方が年金額が多いのでお得です。
障害年金1~2級を受ける人は、国民年金保険料の法定免除制度を利用できます。法定免除とは国民年金の保険料が免除される制度で、お住まいの市区町村役場に申請すると、国民年金の保険料を支払う必要がなくなります。
保険料を免除された期間は老齢基礎年金が減額されるので、法定免除の期間が長い人ほど受け取れる老齢基礎年金の額が少なくなります。
そのため、法定免除を受けた場合は老齢基礎年金よりも障害基礎年金を受給するほうがお得になるのです。
なお、法定免除を受けずに保険料を納めていたり、追納した場合は、その期間は減額されず老齢基礎年金に反映されます。
【18歳未満の子を扶養している】
18歳未満の子を扶養している場合は、子の加算額がつくので老齢基礎年金よりも障害基礎年金の方が年金額が多くなります。
子の加算額とは、障害年金1~2級を受ける人に次のような子がいるときに加算される期間限定の家族手当のようなものです。
- 障害年金1~2級を受ける人に生計を維持されている
- 18歳になった後の最初の3月31日までの子、または20歳未満で障害等級1級または2級の状態にある子
子の加算額は老齢基礎年金にはつかないので、障害基礎年金を受ける人に高校卒業までの子がいるときには、老齢基礎年金よりも障害基礎年金の方がお得になります。
障害年金で受けられる年金額の詳細は、障害年金でもらえる金額は?精神疾患だと年金額は変わる?社労士が解説!でわかりやすく紹介しています。
参考:障害基礎年金の受給要件・請求時期・年金額|日本年金機構
障害厚生年金と老齢厚生年金を比べた場合
障害厚生年金と老齢厚生年金を比較した場合、どちらがお得になるかは人により異なります。
障害厚生年金と老齢厚生年金は、厚生年金に加入していた期間や納めた保険料により年金額が決定されるため、「こちらの年金が有利」とは断言することができません。
自分が受け取れる老齢年金の年金額が知りたいときには、毎年誕生月に届く「ねんきん定期便」でおおよその年金額がわかります。ねんきん定期便は、35歳、45歳、59歳のときに詳細な老齢年金の見込み額が封書で届くので、確認してみましょう。
もっと正確に年金額を知りたいときは、65歳以降に年金事務所で試算することをおすすめします。
参考:大切なお知らせ、「ねんきん定期便」をお届けしています|日本年金機構
障害年金と老齢年金|選択するときに注意するポイント
障害年金と老齢年金のどちらかを選択するときには、必ず年金事務所で試算しましょう。
特に、配偶者や子の加算額は期間限定で加算されるものなので、いつ加算が終わるのかを確認し、自分の年金額の変化を理解しておくことが大切です。
どちらの年金にするか決めるときには、試算額の多さだけで見るのではなく、国民健康保険の保険料や税金など控除される金額を把握したうえで「手取りはいくらになるのか」をしっかり確認して判断することをおすすめします。
選択する年金が決まったら、年金事務所に「年金受給選択申出書」を提出すると、提出した月の翌月から選択した年金が受け取れます。
なお、遡って年金を選択することはできないので、早めに手続きしましょう。
まとめ
障害年金と老齢年金を両方受け取れるようになったときは、どちらかの年金を選択しなければなりません。
65歳以降になると、選択のバリエーションが増えて障害年金と老齢年金を併給するパターンも選べます。
障害年金を受け続けるのか、老齢年金と併給するのかを判断するときは、総支給額を見るだけではなく、税金などの控除される金額も調べて「手取りでいくらになるのか」をみることをおすすめします。