更新日:2024.11.29
障害年金と失業保険のダブル受給は可能?併給の条件を徹底解説!
障害年金を受けている人が会社を退職した場合、「失業保険」を受けられることがあります。
退職後に障害年金を受けながら、失業保険をもらえれば、経済的な不安を減らせますね。
しかし、障害年金と失業保険を両方受給することについて、こんな不安の声も聞かれます。
「障害年金をもらっているのに、失業保険ももらっていいのかな」
「失業保険をもらうと、障害年金が減るのか心配…」
そこで、この記事では障害年金と失業保険のダブル受給について詳しく解説します。
障害年金と失業保険を受け取れる条件がわかるので、最後まで読んで参考にしてください。
目次
障害年金と失業保険の基礎知識
まず、障害年金と失業保険のそれぞれの概要をご紹介します。
障害年金とは?
障害年金は、現役世代が病気やけがで障害の状態になったときに受けられる年金保険で、老齢年金や遺族年金と同じく国が運営する制度です。
障害により仕事や日常生活に制限を受けたり、仕事ができなくなったときに支給され、障害のある人の生活を経済的に支える重要な役割を担っています。
障害年金は、身体的な障害だけではなく、うつ病や発達障害などの精神疾患も受給対象です。
障害年金の認定では、日常生活や仕事にどのくらい支障や制限があるのかを見て審査します。
そのため、病名が同じであっても障害等級が違ったり、障害年金が不支給になることもあります。
なお、障害年金を新たに申請できるのは、原則として20歳~64歳までです。
障害年金をもっと詳しく知りたい人は、障害年金とは?何歳から請求できる?社労士がわかりやすく解説でご紹介していますので、ぜひご覧ください。
参考:障害年金(日本年金機構)
障害年金の種類
障害年金の種類は、下記のとおり2つあります。
- 障害基礎年金
- 障害厚生年金
初診日※に加入していた年金制度により、受け取れる障害年金の種類が変わります。
※初診日とは、障害の原因となった病気やけがで初めて医師の診療を受けた日のこと
障害基礎年金と障害厚生年金の違いを下記に示します。
初診日に加入していた年金 | 障害年金の種類 | 障害の等級など |
---|---|---|
国民年金 | 障害基礎年金 | 1級、2級 |
厚生年金 | 障害厚生年金 | 1級、2級、3級 障害手当金※ |
障害年金を受け取れる条件
障害年金を受給するには、次の3つの条件をすべて満たすことが必要です。
- 初診日要件
・障害の原因となった病気やけがの初診日に国民年金か厚生年金に加入中である
・20歳前または日本に住んでいる60歳~64歳の人で年金制度に加入していない
- 障害状態要件
・障害認定日に障害の状態が障害等級表に定める1級または2級に該当している
(障害厚生年金は1級から3級に該当すること※)
- 保険料納付要件
・年金の保険料を一定期間以上納付していること
(20歳前に初診日がある場合は、保険料納付要件は問われない)
※障害認定日に障害の状態が軽かったが、後で重くなった場合は障害厚生年金を受けられることがある
障害年金の受給要件の詳細は、障害年金の3つの受給条件とは?年齢は関係ある?わかりやすく解説!でご紹介しています。
障害年金の受給額は、障害年金でもらえる金額は?精神疾患だと年金額は変わる?社労士が解説!をご覧ください。
参考:障害基礎年金の受給要件・請求時期・年金額|日本年金機構
参考:障害厚生年金の受給要件・請求時期・年金額(日本年金機構)
失業保険とは?
失業保険は、正しくは「雇用保険」といい、失業するともらえる「失業手当」は正式名称を「基本手当」といいます。
失業手当は、仕事をしていたころの賃金の45~80%に相当する額を、失業している間の一定期間受け取れる制度です。
※この記事では、「基本手当」を「失業手当」と表記します。
失業手当を受け取れる条件
失業手当を受け取るためには、下記の条件をすべて満たすことが必要です。
- 離職の日以前2年間に、被保険者期間が通算して12か月以上あること※
- ハローワークに来所して求職の申し込みを行うこと
- 就職しようとする積極的な意思といつでも就職できる能力があること
- 本人の努力やハローワークの援助によっても職業に就くことができない「失業の状態」にあること
※特定受給資格者または特定理由離職者は、離職の日以前1年間に、被保険者期間が通算して6か月以上ある場合
失業手当をもらうには、前提として就職する意思と能力があることが必須条件です。
そのため、すぐに転職する人や、病気やけが、妊娠・出産等ですぐに働けない人、就職する意思のない人は、失業手当は受けられません。
参考:基本手当について(ハローワークインターネットサービス)
参考:基本手当の所定給付日数(ハローワークインターネットサービス)
障害年金と失業手当の同時受給はできる
結論として、障害年金と失業手当のダブル受給は可能です。
障害年金と失業手当に併給調整※の規定がないため、両方受け取ることができます。
※併給調整とは、同じ原因に対しては重複して給付はしないと定めた規定のこと
しかし、「年金と失業手当は同時にもらえない」と聞いたことがある人は多いでしょう。
例えば、60歳から64歳までに支給される老齢年金を受ける人が、失業手当の申請をすると年金が止まります。
これは、老齢年金と失業手当に併給調整があるためで、老齢年金と失業手当の両方の条件を満たしても、満額を受け取ることができません。
一方で、障害年金と失業手当には併給調整がないので、どちらかが減額されたり、支給停止になったりすることなく、2つの制度からそれぞれ支給を受けられます。
障害年金と失業保険|併給の条件とは
前述したとおり、障害年金は「障害により仕事や生活に支障がある」ことで年金を受け取れる制度です。
一方で、失業手当は「働く意思と能力があるのに仕事に就くことができない」ことで手当が支給されます。
一見すると、両制度は就労について正反対の定義をしているように見えます。
「もらえる理由に矛盾を感じるけど、本当に両方もらって大丈夫なのかな」と心配になる人もいるでしょう。
これは、障害年金と失業手当では「労働能力の程度」についての捉え方が大きく違うことが要因です。
障害年金と失業手当の「労働能力の程度」の違いをみていきましょう。
障害年金で見る「労働能力の程度」とは
障害年金では、一番障害の程度が軽いとされる3級に着目すると「労働能力の程度」を理解しやすいです。
日本年金機構によると、障害年金の3級の程度は下記のように定義されています。
- 労働が著しい制限を受けるか、または労働に著しい制限を加えることを必要とする状態
- 日常生活にはほとんど支障がないが、労働については制限がある
出典:障害厚生年金の受給要件・請求時期・年金額(日本年金機構)
このことから障害年金を受ける人は、「障害によって通常の労働ができない状態にある」と読み取れます。
つまり、「全く働けない」状態を指すものではありません。
障害があっても、就労の際に下記のような配慮を会社から受けられれば働ける可能性があります。
- 単純作業ならできる
- フルタイムではなく、週に20時間程度なら働ける
- 立ち仕事は難しいので、座ってできる作業を担当する など
障害年金を受ける人が、自分ができる範囲の条件で仕事を探すことは、「就職しようとする意思と能力」があることになるため、失業手当を受けられます。
失業手当で見る「労働能力の程度」とは
失業手当で見る労働能力は、フルタイム勤務だけではありません。
雇用保険は下記の要件を満たす人が加入できる制度です。
- 31日以上引き続き雇用されることが見込まれる者
- 1週間の所定労働時間が 20 時間以上である
出典:雇用保険の加入手続はきちんとなされていますか!|厚生労働省
このことから、週20時間以上の就労ができる人は、雇用保険では就職できる能力があるといえるでしょう。
したがって、正社員を目指して就職活動をする人だけでなく、パートやアルバイトなどの短時間の仕事を探す人でも失業手当を受けられます。
障害年金と失業手当|併給の条件のまとめ
労働能力が下記の条件を満たしている場合は、障害年金と失業手当を併給できる可能性があります。
- 障害年金
病気やけがによる障害があるため制限を受けるが、周りの配慮があれば就労できる
- 失業手当
週に20時間以上働ける意思と能力がある
なお、現在の障害の状態が、週に20時間以上働くことが難しい場合は、失業手当の受給期間を最大4年間まで延長が可能です。
ハローワークに申し出れば、失業手当の受給を保留できます。
退職時に障害の状態が悪化している場合は、受給期間の延長を検討しましょう。
障害年金と失業手当|よくある質問
障害年金と失業手当の併給で寄せられる質問に回答していきます。
失業手当を受けると、障害年金の等級は変わる?
結論としては、失業手当を受けると障害年金の審査や障害等級の判定に影響が出ることがあります。
障害年金を受ける人が「失業手当を受ける」ということは、「働く能力がある」ということです。
日本年金機構で障害年金の審査や障害等級を判定する際に、「働けるならば、障害で生活や仕事に支障がでることは少ない」と判断されやすくなります。
特に、うつ病や発達障害などの精神疾患や内臓疾患など、客観的な数値で障害の状態を測れない疾患の場合は、失業手当の受給が障害年金の審査や等級の判定に影響を及ぼす傾向が見られます。
一方で、失業手当の受給の影響をほとんど受けない疾患もあります。
- 聴力障害、視野障害、視力障害などの数値で障害の度合いが測れる疾患
- 人工弁を装着している
- 人工透析を受けている
例えば、障害年金を受けている聴力障害のある人が失業状態にある場合、「会社から配慮を受ければ、週に20時間以上働ける」のであれば、働ける能力があるとみなされ失業手当が受け取れます。
さらに、入社後フルタイムで働けるようになったとしても、「労働能力があるから」という理由で障害年金の審査や障害等級の判定に影響が出ることはありません。
失業手当を受けると、障害年金の更新ができないってほんと?
失業手当を受けている人でも、障害年金の更新はできます。
障害年金を申請し無事に認定されると、ほとんどの場合は1~5年後に更新手続きがあり、これからも障害年金を受け続けられるか審査を受けます。
障害年金の更新は、失業手当の受給とは関係なく受けるものなので、失業手当を受給中でも更新の手続きは必要です。
しかし、失業手当を受けているということは、「働ける状態にある」ということを意味します。
更新の審査の際に、日本年金機構が「働けるほど障害の状態が良くなっている」と判断すると、障害等級が落ちて年金が減額になったり、不支給になることがあるのです。
また、更新のときに働いている場合は、仕事の内容や働き方、援助の内容などを具体的な就労状況を見て、審査されます。
障害年金の更新の相談は、年金事務所や障害年金専門の社労士事務所で受けられます。
まとめ
障害年金と失業手当は、併給の調整を受けないため、条件を満たせば同時に受けることができます。
ただし、うつ病や発達障害などの精神疾患や内部疾患は、障害の度合いが客観的な数値で症状の程度が測れないため、注意が必要です。
失業手当を受けると「働けるほど、障害の状態がいい」と判断され、障害年金の審査や障害等級の判定に影響を及ぼすことがあります。
障害年金を受けている人や申請を予定している人は、ご自身の障害の程度や症状を見極めて失業手当を受給するか判断しましょう。