更新日:2024.07.14
傷病手当金と障害年金、どっちももらえる?併給の仕組みと知っておくべきポイント
突然の病気やけがで仕事ができなくなり、収入が途絶えてしまった…
そんなとき、あなたは何を頼りにすればよいのでしょうか?
傷病手当金と障害年金は、どちらも病気やけがで働けなかったり、障害があって仕事や生活に支障がある方の生活を、経済的に支える制度です。
しかし、それぞれの役割や仕組みは異なり、「どっちをもらえるの?」「どちらかを選ばないといけないのかな?」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。
この記事では、傷病手当金と障害年金の概要と併給の仕組みについて、わかりやすく解説します。
併給に関する注意点や知っておくべきポイントも紹介するので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
傷病手当金とは、どんな制度?
傷病手当金とは、健康保険の被保険者が業務外の病気やけがの療養のため休業した場合に、会社から給与の支払いがないときに申請できる制度です。
傷病手当金を受け取れる人は「健康保険の被保険者」なので、扶養家族が休業しても傷病手当金は受け取れないので注意しましょう。
なお、フリーランスや自営業の方は国民健康保険に加入することが多いですが、国民健康保険には傷病手当金の制度がないため、業務外の傷病で療養し休業しても、傷病手当金の支給はありません。
傷病手当金の受給要件は?
傷病手当金の主な受給要件は以下のとおりです。
- 業務外の病気やけがの療養のため休業している
- 3日間連続して休み、4日目も仕事ができずに休業している
- 休業期間中に給与の支払いがない
なお、給与の支払いがあっても傷病手当金の支給金額よりも少ない場合は、その差額分を受け取れます。
詳しくは後ほどご紹介します。
傷病手当金はいくらもらえる?
傷病手当金の支給額は、ざっくりいうと給与の3分の2ほどです。
以下に支給額の計算式を示します。
傷病手当金の1日あたりの支給金額=
直近12ヶ月の標準報酬月額を平均した額※ ÷ 30日 × 2/3
※ なお、健康保険の被保険者期間が1年に満たない場合は、資格取得後の平均額か、全被保険者の平均額のいずれか低い方を基礎として算定します。
傷病手当金の支給額の詳細は、傷病手当金|協会けんぽでご確認ください。
傷病手当金の支給期間は?
傷病手当金は、支給開始日から通算して1年6か月です。
下図は、傷病手当金の支給期間を通算した例です。
出典:令和4年1月1日から健康保険の傷病手当金の支給期間が通算化されます|厚生労働省
傷病手当金の支給期間を通算する取り扱いは、2022年から適用になりました。
休業が終わり職場復帰したあと、再度休むことになった場合でも、出勤した日数はカウントせず、残った日数分が1年6か月に達するまで傷病手当金を受け取れるように法改正されています。
うつ病などの再発しやすい疾患でも、利用しやすくなったといえるでしょう。
障害年金はどんな人がもらえるの?
障害年金は、現役世代の人が病気やけがで障害を負い、生活や仕事に支障があるときに請求できます。
障害年金の請求ができるのは、3つの受給要件をすべて満たす人です。
- 初診日※(1)に国民年金か厚生年金の被保険者であること(初診日要件)
- 初診日の前日時点で保険料を一定期間納付していること(保険料納付要件)
- 障害認定日※(2)において、国が定める認定基準に該当すること(障害程度条件)
※(1) 初診日とは、障害の原因となった傷病で初めて医療機関で診療を受けた日のこと
※(2) 障害認定日とは、初診日から1年6か月を経過した日のこと
なお、障害年金は2種類あり、初診日に国民年金に加入していた人は「障害基礎年金」、厚生年金に加入していた人は「障害厚生年金」と「障害基礎年金」を受給できます。
下記は、障害年金の受給を図解したものです。
障害年金の受給要件の詳細は、障害年金の3つの受給条件とは?年齢は関係ある?わかりやすく解説!でご紹介しています。
障害年金について、もっと知りたい方は障害年金とは?何歳から請求できる?社労士がわかりやすく解説をご覧ください。
障害年金と傷病手当金の違いとは?
障害年金と傷病手当金を比較し、下表にまとめました。
障害年金 | 傷病手当金 | |
---|---|---|
運営 | ・国民年金 ・厚生年金 | ・健康保険組合 ・協会けんぽ ・共済組合 |
支給開始の時期 | ・原則として障害認定日以降 (初診日から1年6か月以降) | ・連続して3日間休業後、4日目以降 |
受給できる心身の状態 | ・国の定める障害等級に該当すること | ・仕事ができない状態であること |
受給できる期間 | ・障害の状態にある期間 | ・通算して1年6か月 |
医師の証明 | ・必要 | ・必要 |
傷病手当金は最短で休業4日目から支給が開始されますが、障害年金は初診日から1年6か月以降に支給が始まります。
受給開始までに要する時間が、両制度の大きな違いといえるでしょう。
障害年金と傷病手当金はダブルでもらえる?
傷病手当金と障害年金の原因となった「病気やけがが同一」の場合は、両方を全額は受給できません。
これは、障害年金と傷病手当金は併給調整される関係にあるからです。
社会保障制度から手当金等を受給したときに、他の制度からの支給額が減額されたり、支給停止になったりする仕組みのこと
例)老齢年金と雇用保険など
次章で、障害年金と傷病手当金の併給調整について詳しくご紹介します。
障害年金と傷病手当金|併給調整
障害年金を受けている場合、同一傷病が支給事由となる傷病手当金が調整され、障害年金の支給が優先されます。
下図は、障害年金と傷病手当金の併給の関係を示したものです。
傷病手当金の日額 > 障害厚生年金の日額 + 障害基礎年金の日額
※ 差額分の傷病手当金を受け取れる
障害年金よりも傷病手当金の方が支給額が多い場合は、その差額を受け取れます。
傷病手当金の日額 < 障害厚生年金の日額 + 障害基礎年金の日額
障害年金よりも傷病手当金の支給額が少ない場合は、傷病手当金は支給されません。
なお、傷病手当金を先に受け取っていた場合は、障害年金の受給が決まったあとに傷病手当金を健康保険組合等へ返還します。
参考:傷病手当金|協会けんぽ
傷病手当金の返還の流れ
障害年金の決定前に受けた受け取った傷病手当金を、返還する流れについて見ていきましょう。
返還するのは、重複期間のうちの障害年金相当分のみです。
傷病手当金の返還は忘れたころに始まります。
あとから支給された障害年金は「傷病手当金の返還」にあてることを予定しておきましょう。
障害年金と傷病手当金|遡及請求の併給調整
障害年金の遡及請求が決定した場合、先に受給していた傷病手当金が調整されます。
なお、返還が必要となるのは障害年金の遡及請求と傷病手当金の支給事由が、「同一の傷病」のときです。
過去に遡って障害年金を請求すること
具体的には、障害認定日※から1年以上経過してから障害年金を請求する方法を指す
※ 障害認定日とは、初診日から1年6か月を経過した日のこと
遡及請求の場合、障害年金がもらえる権利(受給権)が発生するのは、障害認定日です。
そのため、先に受け取っていた傷病手当金と支給期間が重複するケースがあります。
この場合も、先に受け取った傷病手当金は健康保険組合等に返還しなければなりません。
遡及請求をする場合は、長期療養していることも多いため、記憶が曖昧になり、以前に受けた傷病手当金を見過ごしがちです。
これから障害年金の遡及請求を検討する方は、病歴や通院歴を見直す際に、傷病手当金の受給があったかを合わせて確認してみましょう。
障害年金の遡及請求は、【最大5年分まとめて支給】障害年金の遡及請求は難しい?必要書類や受給事例もご紹介で詳しく解説しています。興味のある方はぜひご覧ください。
障害手当金と傷病手当金|併給調整
障害厚生年金には、1級~3級のほかに「障害手当金」という一時金があります。
障害手当金を受ける場合も、傷病手当金と併給調整されます。
障害手当金の場合は、以下のように障害年金とは違った方法で調整をします。
- 傷病手当金の合計額が、障害手当金の額に達するまで傷病手当金は支給されない
次の例で具体的に見てみましょう。
-
傷病手当金の日額 5,000円
-
障害手当金の額 1,500,000円
1,500,000円 ÷ 5,000円 = 300日
障害手当金の支給が決まった日から、300日間は傷病手当金は支給停止となる
301日目以降も仕事ができない状態であれば、通算で1年6か月に達するまで傷病手当金が受けられます。
参考:傷病手当金と老齢年金等の併給について|協会けんぽみやざき
障害年金と傷病手当金が同時にもらえるケース
次の2つの場合は、障害年金と傷病手当金が同時に受け取れます。
順番に見ていきましょう。
障害年金と傷病手当金が別の傷病が原因で支給されるとき
障害年金と傷病手当金が併給調整されるのは、同一の傷病で支給されるときです。
つまり、障害年金と傷病手当金が別の傷病で支給される場合は、ダブルで受給できます。
例えば、人工透析で障害年金を受ける方が、転んで足を骨折して傷病手当金を受けるときには、併給調整されず両制度から満額の受給が可能です。
障害基礎年金のみが支給されるとき
傷病手当金と併給調整を受けるのは、「障害厚生年金」です。
障害基礎年金のみを受ける場合は、傷病手当金との併給調整の対象外となり、障害年金と傷病手当金を同時に受けることができます。
初診日に国民年金に加入していた人
例えば、専業主婦や学生、フリーランスや自営業の方など
現在は会社員として働く人であっても、初診日が国民年金加入中であれば障害基礎年金の受給対象となるので、傷病手当金を受ける際には併給調整は受けず、両制度から支給が受けられます。
障害年金と傷病手当金|よくある質問
障害年金と傷病手当金について寄せられる質問に回答していきます。
障害年金と傷病手当金は、どちらをもらうのが得ですか?
障害年金と傷病手当金は、別の制度で運営されています。
受給期間や申請できる時期も大きく違うため、得な方を選んで受け取るということではなく、自分が申請できる制度を利用することをおすすめします。
傷病手当金は、最短で休業4日目から支給が始まるため、傷病手当金を先に受給する人が多いです。
障害年金は、傷病の療養が長引いて働くことが難しいときに申請を検討することが多いですが、病状が障害年金の等級に該当しなければ受給できません。
さらに、障害年金は人工透析などの一部の特例を除き、初診日から1年6か月を経過しなければ申請できず、審査の結果がわかるまでは、さらに4か月ほど要します。
つまり、傷病手当金の受給期間が終わってから障害年金の申請手続きを始めると、障害年金の支給開始までの収入の空白期間が長くなるのです。
傷病手当金からスムーズに障害年金へ移行するためには、早めの手続きが重要といえるでしょう。
ゆうき事務所では、障害年金の申請代行を承ります。
「療養中に年金事務所へ相談に行くのは大変だ…」
「障害年金の制度が難しくて、よくわからない」
こんな不安や疑問がある方は、ぜひ弊所へお問い合わせください。
経験豊富な社労士が、丁寧にお伺いします。
障害年金の受給のほかにも、傷病手当金がもらえないことはありますか?
障害年金の受給のほかにも、以下のようなときには傷病手当金が支給停止になったり、減額になったりします。
傷病手当金と障害年金以外の制度との併給の関係を下表にまとめました。
状況など | 傷病手当金の支給はあるか | 傷病手当金の支給があるケース |
---|---|---|
給料が受け取れるとき | なし | 給料(日額)< 傷病手当金(日額) の場合は、差額を受給できる |
老齢年金がもらえるとき | なし | 老齢年金(日額)< 傷病手当金(日額) の場合は、差額を受け取れる |
労災保険がもらえるとき | なし | 休業補償給付 < 傷病手当金 の場合は、その差額を受け取れる |
出産手当金がもらえるとき | なし | 出産手当金 < 傷病手当金 の場合、差額を受給できる |
傷病手当金は、ほかの制度との併給調整を受けるため、減額や支給停止になることがあります。
傷病手当金を受けるときに、ほかの制度から以前に手当金等を受けたり、これから受ける予定がある場合は、併給調整されるかを確認することをおすすめします。
まとめ
障害年金と傷病手当金は、病気やけがで療養したり、休業したりして、会社から十分な給与を受けられないときに、経済的に生活を支える大切な制度です。
障害年金と傷病手当金は併給調整をうけるため、ダブルで満額は受け取れません。
ただし、障害基礎年金のみを受給している方や、傷病手当金とは別の傷病が原因で障害年金を受給している場合は、傷病手当金は全額受給できます。
障害年金は、申請から支給されるまで最短でも4か月ほど要します。
傷病手当金から障害年金へスムーズに移行したい方は、早めに障害年金の申請を準備しましょう。