更新日:2024.07.29
うつ病でも仕事はできる? 職場で見られる症状と経済的な不安を乗り越えるヒント
うつ病は、仕事や日常生活に支障をきたす可能性のある病気で、近年の患者数は増加傾向にあります。
うつ病の症状によっては、働くことが難しくなって休職したり、退職したりすることになって、経済的な不安を抱えることも少なくありません。
しかし、うつ病で働けない状況でも、経済的な不安を軽減し、希望を持って療養することはできます。
そこで、この記事では、次のようなことを中心にご紹介します。
- 職場で見られるうつ病の症状
- うつ病のある人が仕事を続けるためのポイント
- うつ病で仕事ができない場合、経済的な不安を軽くできる方法
うつ病で働けるのかと不安を抱える人や、休職中の収入について悩みを持つ人は、ぜひ最後まで読んで参考にしてください。
うつ病でも仕事はできる?
結論からいうと、うつ病がある人でも仕事を続けることができます。
うつ病を発症したときには、ゆっくり静養して心身の疲れをとることが大切ですが、さまざまな事情で仕事を休まず、働き続ける人も少なくありません。
しかし、うつ病の症状が重いときは、今までと同じ業務にはつけない状態になることもあります。
そんなときには、短時間勤務ができる職場に異動したり、管理職などの責任の重い役職から一般職に変わったりするなどして、仕事への関わり方を変えながら、勤務を続ける選択をする人も多いです。
会社や上司、同僚などの配慮を受けるなど、周りからのサポートを受けやすい職場環境であれば、うつ病を抱えていても仕事を続けることができるでしょう。
うつ病の初期症状と職場でみられる行動
うつ病を発症した際に、本人の自覚が全くなく、家族や同僚など近くにいる人が異変に気づいて、医療機関への受診をすすめるというケースがあります。
そこで、うつ病の初期症状と職場で見られる行動の例をご紹介していきます。
うつ病の初期症状
うつ病の初期に見られる症状をまとめると、次のようになります。
- 気分が落ち込む
- 何に対しても興味や関心が持てない
- 疲れやすく、集中力が低下する
- 眠れない、または過眠する
- 食欲がない、または食べ過ぎる
- 罪悪感や自己嫌悪感がある
- 死にたいと思うことがある
うつ病は、気分の落ち込みなどの心の不調ではなく、頭痛やだるさ、めまいや吐き気など体の不調として症状が出ることが多くみられます。
そのため、頭痛や吐き気で内科を受診してもなかなか回復せず、医師のすすめで転院したメンタルクリニックで初めて「うつ病」と診断されることも少なくありません。
職場で見られるうつ病のある人の行動
うつ病のある人が職場でとる行動や変化をご紹介します。
- ケアレスミスが多くなる
- 遅刻や欠勤が増える
- 仕事への意欲が低下する
- 同僚とのコミュニケーションを避ける
- 仕事中に集中できない
- イライラしたり、怒りっぽくなったりする
もし、ご自身にこれらの症状や行動、変化がみられる場合は、早めに医療機関を受診して専門医に相談することが大切です。
うつ病のある人が仕事をする際に心がけるポイント
うつ病を抱えて仕事を続ける際には、以下の5つを心がけましょう。
それぞれ順番に解説します。
生活のリズムを整えよう
うつ病に限ったことではありませんが、人間は生活のリズムを整えると、メンタルが安定して心身の不調が軽くなります。
特に、うつ病のある人は不眠の悩みを持つことが多く、良質な睡眠を得ることが難しくなりがちです。
睡眠を改善するには、毎朝同じ時間に起床して朝日を浴びることが効果的です。
決まった時間に起床することを続けると、次第に体内時計が整って正しく働くようになり、生活のリズムが整いやすくなります。
また、趣味に没頭したり、友人と会うなど、生活にメリハリをつけるように意識するのもおすすめです。
無理のない範囲で、バランスの取れた食事や適度な運動も取り入れながら生活のリズムを整えていきましょう。
無理のない生活を送ろう
うつ病はストレスを過剰に受けると症状が重くなるので、無理のないスケジュールで過ごすことも大切です。
例えば、残業が多かったり、睡眠時間が短かったりするとストレスがかかり、心身の不調を招くことがあります。
今後も長く仕事を続けていくためには、調子が悪いときは思い切って休む勇気を持つことも必要です。
どうしても仕事が休めないときには、勤務時間を短くしたり、仕事中は休憩時間を意識的に設けたりするなどの工夫をして、心と体を労わる時間を持ちましょう。
うつ病の症状には波があることを知ろう
うつ病は気分の浮き沈みなどの症状に波がある病気であることを知り、根気よく治療を続けましょう。
うつ病のある人は、朝起きるときに症状が辛いことが多く、午後になるにつれて少しづつ楽になる傾向が見られます。
また、季節の変わり目に心身の不調を訴える人も多く、特に秋から冬に向かうにつれて、気分の落ち込みや不安感を感じることも少なくありません。
抑うつ状態がひどくなると、「最近は元気だったのに、また調子が悪くなってきた」と落ち込み、「もう治らないかもしれない」「仕事を続ける自信がなくなってきた…」と思うこともあるでしょう。
しかし、「うつ病は症状に波がある病気」であることを知れば、過度に心配することなく、心身が回復するまで休養しようという気持ちも生まれます。
うつ病で心身の不調が辛いときは、あまり焦らずゆっくり自分を癒す時間を持ちましょう。
治療に時間がかかっても焦らない
うつ病のある人が仕事を続ける場合は、焦らず時間をかけて治療することが大事です。
うつ病は、治療を開始してもすぐに回復することはなく、良くなったり、悪くなったりをくり返して少しづつ軽快していきます。
うつ病の症状が重いときには、仕事が捗らなかったり、体調を崩して会社を休んだりすることがあり、「思ったように回復しない」と心配になることもあるでしょう。
なかなか進展しない自分自身の病状を見て、悲観的になったり、早くうつ病を克服したいと焦ることもあるかもしれません。
こんなときは自分自身にプレッシャーをかけるよりも、「治療には時間がかかるものだから、ゆっくりに治していこう」と大らかに構えることが、うつ病回復への近道です。
「うつ病とは長い付き合いになるものだ」と受け入れて、あまり焦ったり、心配したりせずに過ごしましょう。
一人で悩まず、周囲のサポートを受けよう
うつ病や仕事の悩みや不安などは一人で抱え込まず、周囲の理解を得たり、サポートを受けたりすると仕事を続けやすくなります。
うつ病のある人は孤独になりやすい傾向にありますが、仕事の不安やプライベートの悩みなどを誰かに話せるとストレスが軽減できます。
職場にうつ病や仕事の相談ができる人がいれば、心強い味方となるでしょう。
もし周囲に相談できる人がいない場合は、主治医に相談したり、カウンセリングを受けたりすることもおすすめです。
うつ病で働けなくなったら…|経済的不安を和らげる方法
これまでうつ病を抱えながらなんとか働いてきたけれど、体調の回復が思わしくないため休職をすることがあります。
こんなときに、一番心配になるのは収入が減ることでしょう。
そこで、休職期間の経済的な不安を軽減できる制度を3つご紹介します。
それぞれ順番にみていきましょう。
障害年金を請求する
うつ病で休職している場合は、障害年金が受給できる可能性があります。
障害年金は、現役世代の人が病気やけがで障害があり、仕事や日常生活に制限を受ける場合に請求できる制度で、認定されると年金として現金が支給されます。
「障害年金」というと身体に障害があるときを思い浮かべることが多いですが、うつ病や発達障害などの精神疾患も支給の対象です。
次の3つの受給要件をすべて満たすと、障害年金の請求ができます。
【初診日要件】
初診日に国民年金か厚生年金に加入していること
【保険料納付要件】
初診日の前日において、年金の保険料を一定期間納付していること※1
【障害状態要件】
障害認定日※2に障害等級表に定める1級か2級の状態にあること
(障害厚生年金は1級から3級に該当すること※3)
※1 20歳前に初診日がある場合は納付要件は問われない
※2 障害認定日とは、初診日から1年6か月経過した日のこと
※3 障害認定日には障害が軽くても、後に重くなった場合は障害厚生年金を受けられることがある
障害年金の制度については、障害年金とは?何歳から請求できる?社労士がわかりやすく解説で詳しくご紹介しています。
参考:障害基礎年金の受給要件・請求時期・年金額|日本年金機構
参考:障害厚生年金の受給要件・請求時期・年金額|日本年金機構
障害年金の特長①|障害等級にあてはまる間は年金が支給される
障害年金の大きな特長は、障害等級にあてはまる障害の状態にある期間は受給できることです。
例えば、休職後に短時間で働いたり、就労移行支援を利用したりする場合でも、障害の状態が国の定める障害等級にあてはまる間は、障害年金を受け取れます。
つまり、障害年金は働いていても受給できるということです。
うつ病を抱えて働く場合、今までと同じ仕事ができずに短時間勤務を選択したり、今までよりも責任の軽い仕事に就いたりするなどして、給与が以前よりも下がることがあります。
しかし、障害年金は障害等級にあてはまる間は働いていても受給できるので、生活費を補填したり、将来に備えて貯蓄したりできます。
障害年金は、休職中のみならず復職後も経済的な不安を和らげる制度であるといえるでしょう。
障害年金の特長②|障害年金には家族手当がある
障害年金には、「配偶者加給年金額」や「子の加算額」という名称の家族手当の役割を果たす制度があります。
「配偶者加給年金額」や「子の加算額」は、配偶者や子の年齢や収入の条件を満たすと加算されますが、配偶者は64歳まで、子は18歳の年度末または障害のある子は20歳までの期間限定の支給です。
「障害厚生年金1級または2級」には「配偶者加給年金額」と「子の加算額」が付加され、
「障害基礎年金」には「子の加算額」が加算されます。
配偶者加給年金額や子の加算額は、障害年金でもらえる金額は?精神疾患だと年金額は変わる?社労士が解説!で詳しくご紹介していますので、ぜひご一読ください。
障害年金はすべて書類審査で行われ、請求書や添付書類の準備に手間がかかることが多いです。
障害年金の請求に不安があるときは、障害年金専門の社労士に代行を依頼することもできます。
なお、うつ病で休職する際の過ごし方や障害年金の受給の詳細は、【うつ病で休職を考える方へ】手当や給料はどうなる?過ごし方は?障害年金もご紹介でわかりやすく解説していますので、ぜひご覧ください。
傷病手当金を請求する
「傷病手当金」は健康保険が運営する制度で、業務外の病気やけがで仕事を休み、その間の給与が十分に受けられないときに請求できます。
傷病手当金の概要を下表にまとめます。
支給額 | おおよそ給与の3分の2に相当する金額 |
支給開始の時期 | 連続して休んだ3日間を含み、4日目から支給 |
支給される期間 | 支給開始日から通算して1年6か月 |
上記の「通算して」とは、途切れていても全部合わせることを意味しています。
例えば、うつ病で休職して仕事に復帰したけれど、再発したために再度休職する場合は「1年6か月」のカウントに出勤した期間を含めず、2回目の休職期間に残りの期間の傷病手当金を受け取るということです。
なお、仕事を休む期間に会社から給与の支払いがあっても傷病手当金の支給金額よりも少ない場合は、その差額分の受給が可能です。
参考:傷病手当金|協会けんぽ
障害者手帳を取得する
障害者手帳が交付されると、医療費の助成などのさまざまな福祉サービスが受けられます。
障害者手帳は、「身体障害者手帳」「療育手帳」「精神障害者保健福祉手帳」の3つの手帳を合わせた呼び方で、うつ病のある人は、「精神障害者保健福祉手帳」を申請できます。
精神障害者保健福祉手帳の有効期限は、「交付日から2年が経過する日の属する月の末日まで」と定められていて、2年ごとに更新の手続きが必要です。
次章では、障害者手帳で受けられる主なサービスを紹介していきます。
【公共料金の割引】
障害者手帳を取得すると、以下のような割引が受けられます。
- 鉄道・バス・飛行機などの公共交通機関
- タクシーや高速道路の利用料
- 美術館や博物館、水族館や動物園
- NHKの受信料
- 携帯電話の基本料金
- USJや、東京ディズニーリゾートなどのテーマパークの入園料 など
なお、時代の流れに合わせて、障害者手帳アプリを導入する自治体も増えています。
アプリを利用すると、バリアフリー情報を検索したり、一人ひとりに合わせた情報が配信されるなどのサービスが受けられ、障害者手帳がさらに使いやすくなるでしょう。
参考:障害者手帳アプリ 「ミライロID」による公共施設使用料等の免除について|船橋市
【税金の優遇】
障害者手帳を受けると、所得控除(27万円)が受けられるため、所得税や住民税が軽減されるほか、相続税も軽くなります。
障害のある人に向けた税金の優遇は、国税庁のホームページ障害者と税で詳細をご確認ください。
参考:障害者控除|国税庁
【医療費の助成】
障害者手帳を持つ重度障害のある人は、医療費の助成が受けられ、医療機関を受診する際に「受給券」を提示すると、一部負担金のみで受診できます。
また、精神疾患のある人が「自立支援医療」を利用すると、通院して受けた医療費の一部を公費で負担してもらえます。
こうした医療費の助成を受ければ、うつ病での通院にかかる医療費の心配を軽くしながら、治療が続けられるでしょう。
なお、医療費の助成内容や対象者の詳細は、お住まいの市区町村の役所へご確認ください。
障害者手帳については、障害年金と障害者手帳の違いとは?生活を支える制度をわかりやすく解説で、さらに詳しくご紹介していますので、ぜひご覧ください。
参考:障害のある人のための医療費助成について知りたいのですが。|千葉市
まとめ
うつ病は、仕事や日常生活に支障をきたす可能性のある病気ですが、生活リズムを整えたり、無理のない範囲で働くなどの工夫をすれば、仕事を続けることができます。
しかし、うつ病の症状が辛いときには、思い切って仕事を休んでゆっくりと静養し、心と体の疲れを癒すことを優先させることも必要です。
仕事を休むと経済的な不安が大きくなりますが、障害年金や傷病手当金などの制度を利用して収入を確保することもできます。
上司や同僚など周囲の人に相談したり、利用できる制度をうまく活用したりするなどして、うつ病の治療を続けましょう。