更新日:2025.05.27
知的障害で障害年金を受け取る条件とは?初診日の考え方や手帳との違いも

知的障害がある人やそのご家族にとって、「障害年金が受け取れるのか」は将来を左右する大事な問題です。
「うちの子は障害年金がもらえるのか心配だ」というご両親も多いでしょう。
この記事では、知的障害で障害年金を申請する場合の受給条件や、よく誤解されがちな「手帳との違い」「初診日」の考え方について、わかりやすく解説します。
知的障害での障害年金申請に不安のある人やそのご家族は、ぜひ最後まで読んで参考にしてください。
目次
知的障害で障害年金を受け取れるのはどんな場合?
知的障害で障害年金を受け取れるのは、20歳以上の人が知的障害からくる特性で日常生活や仕事において支障がある(障害等級2級以上)と判断された場合です。
しかし、知的障害がある人すべてが障害年金を受給できるわけではありません。
障害年金の支給の有無やその等級は、国が定める障害認定基準に該当する程度の障害状態であるかどうかに基づいて判断されます。
そのため、個々のケースで障害の状態が詳細に審査されることになります。
障害年金の詳細については障害年金とは?何歳から請求できる?社労士がわかりやすく解説で説明しています
知的障害で障害年金はいくらもらえる?
知的障害の場合、障害基礎年金を受け取るので「障害基礎年金」の年金額を紹介します。
【令和7年度の金額】
障害等級 | 年金額 |
---|---|
1級 | 1,039,625 円 (月額 86,635 円) + 子の加算 |
2級 | 831,700 円 (月額 69,308 円) + 子の加算 |
3級 | なし |
高校生までの子や障害のある子を扶養している場合に、期間限定で加算される家族手当のようなものです。
なお、「知的障害だから」という理由で年金額が増減することはありません。
障害年金の年金額の詳細は、障害年金でもらえる金額は?精神疾患だと年金額は変わる?社労士が解説!でわかりやすくお伝えしています。
知的障害の「障害認定基準」とは?
知的障害で障害年金がもらえるかどうかの基準は、日本年金機構が定める「障害認定基準」で定められています。
以下は、障害認定基準で定められている知的障害での等級を抜粋したものです。
障害の程度 障害の状態 1級 知的障害があり、食事や身のまわりのことを行うのに全面的な援助が必要であって、かつ、会話による意思の疎通が不可能か著しく困難であるため、日常生活が困難で常時援助を必要とするもの 2級 知的障害があり、食事や身のまわりのことなどの基本的な行為を行うのに援助が必要であって、かつ、会話による意思の疎通が簡単なものに限られるため、日常生活にあたって援助が必要なもの 3級 知的障害があり、労働が著しい制限を受けるもの
生まれつきの障害なので、障害厚生年金にはあてはまらず、障害基礎年金を申請します。
先天的な知的障害で障害年金を申請する場合は、「1級」または「2級」が支給対象となり、「3級」は不支給となることに注意しましょう。
知的障害の障害等級はどうやって決まる?
知的障害における障害等級は、個人の日常生活能力や社会生活能力、就労状況などを総合的に評価し、決定されます。
知的障害を含む精神疾患の障害等級の判定には、「精神の障害に係る等級判定ガイドライン(以下、ガイドライン)」が用いられています。
このガイドラインは、2016年から運用されており、等級判定における公平性を確保するために導入されました。
知的障害での審査の際に、総合評価で考慮するべき点としては次のようなことがあります。
項目 | 具体例 |
---|---|
知的能力指数だけでなく、日常生活における具体的な援助の必要性 | 食事、排泄、入浴、着替えなどの基本的な生活動作に加え、金銭管理、公共交通機関の利用、買い物といった社会生活における支援がどの程度必要か |
著しい問題行動の有無 | 自傷行為、他害行為、衝動的な行動など、周囲の安全や社会生活を著しく困難にする行動がないか |
生活の場と支援体制 | ・自宅で家族や訪問介護から、常に付き添いや見守りなどの援助を受けて生活しているか ・施設に入所している場合、その施設で常に援助や介護を受けている状況にあるか |
仕事内容と職場環境 | 単純作業や反復作業が主で、職場の同僚や上司からの継続的なサポートが不可欠な環境で働いているか |
職場でのコミュニケーション能力 | 同僚や上司との円滑な意思疎通が困難で、業務指示の理解や人間関係の構築に支障があるか |
幼少期からの発達の経緯や教育歴 | 幼い頃からの発達の遅れや養育上の困難、特別支援学校などでの教育経験などを考慮する |
療育手帳の有無と等級 | 療育手帳が交付されている場合は、その判定区分(A、Bなど)も重要な判断材料となる |
審査では、医師の診断書だけでなく、本人の病歴や日常生活での援助の必要性、就労の有無やその内容など、多角的な情報が考慮されます。
これにより、単なるIQの数値だけではなく、知的障害がその人の生活にどの程度影響を与えているのかという実態に即した障害年金の等級判断が行われるようになっています。
ガイドラインの詳細は、【精神疾患で障害年金を申請する方へ】等級判定ガイドラインをわかりやすく解説でご説明しています。
障害年金の「初診日」とは?知的障害の場合の注意点
障害年金の申請において「初診日」は重要な要素ですが、知的障害の場合はその捉え方が一般的な傷病とは異なります。
しかし、知的障害は生まれつきの障害であるため、「出生日」が初診日とされています。
この点が、後天的な病気やけがによる障害年金申請と大きく異なります。
知的障害で障害年金を検討する際は、この初診日の考え方を正確に理解しておきましょう。
知的障害は「生まれつき」だけど、初診日の証明が必要?
結論からお伝えすると、知的障害の場合は初診日を証明するための「受診状況等証明書」は必要ありません。
これは、知的障害が「生まれつきの障害」であるとされているためです。
たとえ中高年になってから知的障害の診断を受けたとしても、その人の障害年金における初診日は「出生日」として扱われます。
したがって、通常の病気やけがで障害年金を申請する際に求められるような、初めて医療機関を受診した日の証明は不要となります。
この点は、知的障害で障害年金を検討される人がよく疑問に思われる点であり、申請手続きの大きな特徴の一つといえるでしょう。
障害年金の初診日については、障害年金の初診日とは?カルテがないときの対処法もご紹介!で詳しく解説しています。
知的障害で障害年金が申請できるのはいつから?
知的障害で障害年金の申請が可能となるのは、20歳になった時点からです。
幼少期に知的障害と診断され、療育手帳などを取得していたとしても、障害年金の受給資格は20歳から発生します。
20歳に達した時点で一定の障害状態にあると認められれば、「20歳前傷病による障害基礎年金」として障害年金が支給される可能性があります。
申請時期を見誤らないよう、注意しましょう。
療育手帳があっても障害年金はもらえない?違いを解説
療育手帳と障害年金は全く別の制度で運営されているので、療育手帳があっても障害年金はもらえないことがあります。
両制度の違いを詳しくみていきましょう。
療育手帳と障害年金は制度がまったく違う
療育手帳と障害年金は混同されやすい制度です。
両制度の違いを下表にまとめました。
項目 | 療育手帳 | 障害年金 |
---|---|---|
目的 | 知的障害のある人が福祉サービスや各種支援を受けるための証明 | 障害により生活や仕事が制限される場合に経済的支援(年金)を受ける |
発行主体 | 各自治体(都道府県、指定都市など) | 日本年金機構 |
対象者 | 知的障害のある人 | 障害(知的障害を含む)により、国が定める障害の状態に該当する人 |
等級判定 | ・知的障害の程度や日常生活の自立度などに基づいて自治体が独自に判定 ・等級はA、B(自治体によってはCなど)といった区分がある | ・年金法に基づく独自の認定基準(日常生活や活動能力の制限度合いなど)に基づいて判定 ・等級は1級、2級、3級といった区分がある |
上の表のように、療育手帳と障害年金は全く別の制度なので、障害等級の決め方も異なります。
療育手帳を持っていると、障害年金の審査の参考になりますが、療育手帳があるからといって障害年金がもらえるとは限らないという点に注意しましょう。
障害年金と障害者手帳の違いは、障害年金と障害者手帳の違いとは?生活を支える制度をわかりやすく解説でさらに詳しくご紹介しています。
知的障害での障害年金申請で知っておきたいこと4選
知的障害で障害年金を申請するときに事前に知っておくべきポイントを4つご紹介します。
- 20歳になる前に医療機関を受診する
- 医師とコミュニケーションを取ろう
- 診断書の内容を確認する
- 保険料納付要件は問われない
順番にみていきましょう。
20歳になる前に医療機関を受診する
20歳到達時に障害年金の申請を検討している場合、20歳になる前から医療機関を受診しておきましょう。
知的障害そのものは投薬治療が必要ないため、定期的な通院をしていない人も少なくありません。
しかし、障害年金の申請には、原則として「障害認定日(20歳の誕生日の前日)から前後3ヶ月以内の診断書」が必要となります。
この診断書を医師に作成してもらうためには、20歳になる前から継続的に医療機関で知的障害による障害状態を診てもらい、その経過を把握してもらう必要があります。
一般的に、一度の受診で知的障害に関する詳細な診断書を書いてもらうことは難しいです。
医療機関へ複数回受診しておくと、スムーズに診断書を作成してもらえるでしょう。
医師とコミュニケーションを取ろう
知的障害における障害年金の申請では、医師に作成してもらう診断書の内容がとても重要です。
しかし、知的障害のある人の中には、ご自身でこれらの情報を医師に伝えることが難しいケースも少なくありません。
そのため、家族の方が診察に付き添い、日頃の様子や困りごと、必要な援助の内容などを具体的に医師へ伝える努力が大切です。
事前に伝えたい内容をメモにまとめ、医師に渡すなどの工夫も有効でしょう。
正確な診断書を作成してもらうことで、知的障害の状態が正しく障害年金の審査に反映され、適切な等級認定につながりやすくなります。
診断書の内容を確認する
医療機関から知的障害に関する障害年金の診断書を受け取ったら、必ず記載内容を丁寧に確認しましょう。
知的障害の診断書はA3サイズの用紙の両面にわたって詳細な記入が必要となります。
医師は多忙な中で診断書を作成するので、すべての項目をもれなく記載することが難しい場合があります。
そのため、記入漏れがないか、また日付の記載に誤りがないかなどをチェックし、必要であれば追記や訂正をお願いすることもあるのです。

診断書の内容が障害年金申請に必要な情報を正確に記載されているか判断に迷う場合は、障害年金専門の社会保険労務士に相談することをおすすめします。
保険料納付要件は問われない
先天的な知的障害で障害年金を申請する場合、国民年金保険料の納付状況は問われません。
これは、知的障害が「20歳前傷病」として扱われるためです。
知的障害の初診日は「出生日」とされており、国民年金への加入義務が発生する20歳よりも前の時点に該当します。
そのため、出生日より前に保険料を納めることは不可能であることから、20歳前の傷病による障害年金(障害基礎年金)については、保険料納付要件は問われません。
したがって、先天的な知的障害をお持ちの方が障害年金を申請する際に、これまで国民年金保険料を納めていなかったとしても、そのことが原因で不支給となる心配はありません。
申請の流れと必要書類をチェックしよう
知的障害で障害年金を申請する流れは次のとおりです。
- 年金事務所等で相談し、必要書類を確認する
- 医師に診断書を依頼する
- 病歴・就労状況等申立書を書く
- 戸籍謄本などの添付書類を準備する
- 書類が揃ったら提出する
知的障害での障害年金申請で必要となる主な書類は、次のようなものがあります。
- 年金請求書
- 基礎年金番号通知書または年金手帳等の基礎年金番号を明らかにすることができる書類
- 戸籍謄本、戸籍抄本、戸籍の記載事項証明、住民票、住民票の記載事項証明書のいずれか
- 医師の診断書(所定の様式あり)
- 病歴・就労状況等申立書
- 受取先金融機関の通帳等(本人名義)
障害年金の添付書類は、個別の事情により異なるので必ず年金事務所等で確認しましょう。
具体的な手順については、【障害年金の手続きをスムーズに進めたいあなたへ】申請の流れをわかりやすく解説をご覧ください。
なお、障害年金の重要書類である「病歴・就労状況等申立書」については、病歴・就労状況等申立書は障害年金の重要書類!書き方や記入例もご紹介でわかりやすく解説しているので、ぜひ参考にしてください。
まとめ
知的障害は、おおむね18歳ごろまでに特性が表れ、日常生活に支障が生じることから特別な援助が必要となります。
生まれつきの障害なので、保険料を納めていなくても障害年金が申請できますが、幼少期に知的障害があると診断されても20歳を迎えてからの申請となります。
服薬の必要がないため、知的障害で定期的に医療機関へ通院していない場合は、20歳になる前に医療機関を受診し、診断書を作成してもらえるように準備しておきましょう。
知的障害での障害年金申請について、家族で書類を作成するのが難しいときや、障害年金について疑問や不安があるときは、社労士に相談できます。
スムーズに障害年金を申請したいときにもお力になれますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。